私が出会った数え切れない悲しみと新生への希望・・・・

3.カブール空港到着

 中央アジアにあるアフガニスタンは、周囲をロシア、パキスタン、イランなどに囲まれ、国土の4分の3が山岳地帯。
 その上空、機内から見たものは・・・・・平面で土や泥らしきもので作ってある住居。砂が舞い、その昔の遺跡かと見間違えるようなカサカサとした町並み(第一印象は、スターウォーズに出てくる砂の惑星タトゥイーンように思えました)。ここが首都カブール・・・・・。
 飛行機がカブール空港に着陸し、機内から見た光景に私は言葉を失くしました。「これが空港・・・・・?」
 数々の飛行機が横たわっていました。工事中なのかと目を疑いましたが、そうではありませんでした。それは爆撃による破壊の後だったのです!
 攻撃され、破壊された飛行機が何機も何機も死骸のように横たわり、その無残な姿をさらしていました。「伝えなければ」の一心でカメラのシャッターを押しました。でも、レンズがぶれる。もう一度・・・・・やっぱりぶれる・・・・・。
 私の体はあまりの動揺から指先まですべて震えていたのでした。「これが戦争なんだ。この国は悲鳴をあげている・・・・・」
 スタッフ全員が無言のまま、機外へ出ました。
 機外へ出ると、暑さに驚きました。気温は毎日40度を超えるとのこと。しかし湿気はなく、カラカラでした(雨はこの3年ほとんど降っていないということです)。
 空港全体がピリピリとした緊張感に包まれていました。あたりの様子を撮ろうとカメラを持ち上げた瞬間、周囲の警備員、警察、空港職員から大声で注意を受けました。かなりの厳戒態勢。
 警戒しながらおそるおそる空港の中の建物に入って行く途中、バラバラバラバラというものすごい轟音とともに軍用ヘリが上空を通過しました。その銃口が容赦なく地上に向いています。「私は本当にこの戦火の国、アフガニスタンに来たのだ」と痛いほどに感じた瞬間でした・・・・・。

 空港内の入国審査にはかなりの時間がかかりました。きちんと並ぼうにもどんどん横から人が割りこんできてしまう状態で、何がなんだかわからない。まわりも異様な雰囲気で、とにかくパスポートをなくしたり、盗られたりしたら大変だとしっかりと手に握りしめていました。
 今は観光目的ではこの国に入ることはできません。だからまわりにいる人々は皆、外国から来たジャーナリストたちなのでしょうか。そこはまさに人種のるつぼで、たくさんの言語が飛び変わっていました。
 この取材では目にするものすべてを、ありのままに記録しようということで、終始、私にはテレビカメラが向けられ、それがまわりっぱなしの状態でした。そして私の手にはプロ用の大きなレンズの付いたカメラが。
 まわりの人々が「あなたもジャーナリスト?」と聞いてきました。とっさに私は「イエス」と答えてしまいました。ここで「いいえ、私はアクトレスです」と答えたなら、「なぜここに来たんだ? 何しに? どういうことだ?」と質問攻めにあうのが予想された上、それに答えていられる時間もなかったからでした。
 でも、そうは答えたものの、周囲の好奇の視線をかなり感じました。そうです、ここはイスラムの国なのです・・・・・。
 以前、タリバンは女性にブルカ(女性が家族以外の者から顔や身体を隠すために着用する民族衣装)なしの外出を禁じました。しかも、例外なしに。
 たとえば、こんな話がありました。息子が高熱を出して今にも死にそうなほど苦しんでいる。夫も戦争に行ってしまい、彼女しか息子を病院へ連れていけない。病院へは山を越えて2時間の距離。しかし、彼女の家にはブルカがなかった。外出したらその場で息子もろとも殺されてしまう。結局、そのまま息子は死んでしまったというのです。もし、病院で手当てを受けていたら助かっていたかもしれない彼女の息子・・・・。
 そんなふうに、布切れ1枚なかったばかりに人の命が見殺しになったケースは少なくないと聞かされました。
 しかし、タリバン政権が崩壊した今、アフガニスタンでのイスラムの世界観や法律に鑑みても、女性は必ずしもブルカをかぶる必要がないとされています(アラブ首長国連邦などのイスラムの世界では女性は必ず、真っ黒の装束を頭からかぶらなくてはならないのですが)。
 だが、今も街を歩く女性はブルカで全身を覆い隠すようにしています。なぜ、今も?
 それはアフガニスタン男性の女性観からきているのです。法律に関係なく、「女性は顔を隠すべきだ」「女性は教育を受けなくていい」「女性は家以外では働いてはいけない」などと、いまだに保守的な考え方が根強く残っているのです。そのため、アフガニスタンの山奥の地方などでは、女の子は8歳から10歳くらいで、相手の家の労働力として数頭のヤギや羊などと交換で嫁いでいくといいます。一生、教育を受けることなく読み書きもできぬまま・・・・・。
 私たちの世界からは考えられませんが、そういう家庭はアフガニスタンでは少なくないのです。
 女性に対してのそのような考え方をするアフガニスタンの男性は特に年配の方に多いのですが、それはアフガニスタンの女性に対してだけではありません。外国人の女性に対しても、彼らの考え方は適応されます。だから、ブルカをつけていなくても、それが法律的にも宗教的にも違反ではないにもかかわらず、髪や顔を出して生活をしていると、男性から好奇の視線や卑猥な言葉が飛んでくるのです・・・・・。
 とはいえ、それらはこの国の文化であるのですから、この国の歴史や文化を認識して敬意を表するという意味で、私はスカーフや帽子など頭を隠すものをこの旅に持ってきていました。
 私はカブールに着くとすぐに、それを手持ちの鞄から取り出し、頭に巻いたのでした・・・・・。

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